伝次平『稲作小言』にあるという文章を発見~
「肉食世界を 米食世界に 変ずるようにと 尽力するこそ 農家の職分」とはすばらしい!
ヤレヤレ皆様 しばらくお耳を拝借しますよ
私と申すは ずうっと昔の その また昔の神代の時代に
豊葦原より現れ出ましてそれより日本に広まりましたる お米であります
飯にはもちろん 酒でも寿司でも 菓子でも味噌でも お米で作れば
味わいよろしく 紙すく糊にも 布はる糊にも 調法いたして 無類のものなり
とげる時分に 出たる粉糠は 牛馬の食料
風呂場に有用 肥料に要用 沢庵漬けには最も必要
糠味噌にも これまた同様
その茎わら 飢饉の食料 製紙の材料
縄・みの・むしろに俵に叺に 草鞋に脚半に 農家のふき草
垣壁なんどに 添えるはもちろん 貯蓄のたねもの 包んでおくなら
温気は通さず 湿気も犯さず 焚きてはその灰 種々に必要
腐敗しますりゃ 肥料に適当 そのほか効用 枚挙はつきせず
然るにこのごろ お米を廃して 肉食世界に 改良しなさる
お説も聞いたが 肉食世界を 拒むじゃなけれど 獣類なにほど
繁殖なすとも 値段が高くちゃ 下等の人民 食うことかなわず
米なら三銭 四銭でたくさん
穀類作れば一反二反の 僅かな田地の 収穫ものでも一戸の家内の
四人や五人は 年中食して余りがあります
牛馬を一頭育ててみなさい ある人申すに数年原野に
放牧するには一頭飼育に 六,七町余りの 地面を要すと
ヤレヤレ皆様 よく聞きなされよ
六,七町余に 一頭ぐらいを 飼うよなことでは 三千八百余万の人民
匂いをかぐには 足りるであろうが
食うには足るまい 足らざるときには肉類輸入し つまりは必ず お国の損耗
近年お米が 豊作続きで 安値であれども 安値であるとて捨ててはいけない
十分はげんで 智力をつくして光沢味わい 最もよろしき 上等種類を多分に作りて
どしどし輸出し外国一般 その良き味わい 十分知らしめ
肉食世界を 米食世界に 変ずるようにと 尽力するこそ 農家の職分
皆様はげんで勉強しなされ 勉強なさればお金はどっさり 日本に充満 日本に充満
明治二十年 船津伝次平 作